「いま騒がれている『カジノ法案』ってどんな法律なんだろう?」
「日本でカジノができたら、治安が悪くならないか心配…」
「カジノって日本でいつ、どこにつくられるんだろう?」
こんにちは、カジノアカデミア編集部です。
2016年12月、通称「カジノ法案」(正式には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」)が成立しました。
ただ、カジノ法案の成立から3年以上経っているのにもかかわらず、2020年現在、まだ日本でカジノは設立されていません。
この記事では、多くの誤解がある「カジノ法案」がいったいどのような法律なのかを解説していきます。
カジノ法案にはどんなメリットがあり、逆にどんなデメリットがあるのか、できるだけ公平・客観的にお伝えします。この記事を読むことで、今後の日本でカジノ法案がどう進むのか理解できるはずですよ!
図解ですぐわかる!カジノ法案
2020年カジノ法案の最新情報
2019年12月、東京知特捜部が自民党の秋元司衆院議員を収賄容疑で逮捕しました。IR参入を狙う中国企業の「500ドットコム」から現金300万円を受領した疑いがもたれています。
観光立国の推進役で国土交通副大臣を務め、IR誘致にも積極的だった秋元氏が逮捕されたことで、IR推進に逆風が吹くものと思われます。
秋元氏の逮捕を受け、野党はカジノを禁止する法案を提出する意向を示しています。カジノ禁止の法案が可決される可能性は低いですが、世論はカジノ反対に傾く可能性があります。
これだけはおさえておきたい!カジノ法案の基本
まずカジノ法案とは、いったいどんな法律なのか見ていきましょう。重要なところは下記の通りです。
- カジノ法案はあくまで通称
⇒「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」「特定複合観光施設区域整備法」をまとめてカジノ法案と呼ばれている
- カジノ法案は統合型リゾート施設(IR)を設立するための法律
⇒国際会議場からショッピングモールまで、あらゆる施設を集め、外国人観光客を増やすためにつくられるもの。カジノがIRで占める割合はごく一部。
新聞などで「カジノ法案」と呼ばれていますが、これは通称であって、正式な法律名ではありません。カジノ法案は、一般的に次の2つの法律の呼称です。
- 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(2016年12月可決)
- 特定複合観光施設区域整備法(2018年7月可決)
法律の名称が長いため「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」は「IR推進法」、「特定複合観光施設区域整備法」は「IR整備法」と略されます。
そして、2つの法律がカジノ解禁を可能にすることに注目した人たちが、総称して「カジノ法案」と呼び出し、定着したのです。
それでは、カジノ法案とはいったいどんな目的でつくられたのか詳しく見ていきましょう。
カジノ法案はIR設立を目的とした法律
すでに解説した通り、カジノ法案はそもそも「特定複合観光観光施設」(長いので、以降はIRと統一します)をつくることを目的とした法律です。
ではIR施設として、いったいどのようなものが想定されているのでしょうか。IR推進法を見てみましょう。
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
引用元:特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)
やや固い表現が並んでいますが、海外のIR施設を考慮に入れると、次のような施設がつくられることが予想されます。
- MICE(国際会議場、国際展示場)
- ホテル
- エンターテインメント施設(劇場、映画館、水族館など)
- カジノ
- レストラン
- ショッピングモール
要するに、公共性の高い会議室からレジャー施設までぜんぶまとめたものがIR施設です。数あるIR施設の一つとしてカジノが想定されています。
IRのイメージとしては、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズが参考になるでしょう。
マリーナ・ベイ・サンズには美術館や博物館にくわえ、展望プールもあり、それらの施設に隣接するようにホテルが建ち並んでいます。
カジノ法案とは、あくまでもこのような大規模リゾート都市を設立する目的でつくられた法律なのです。
カジノ法案で日本中にカジノができるようになるわけではない
カジノ法案ができることで、日本中に無制約にカジノが乱立するわけではありません。またIRがカジノを中心としたリゾート地区になることも考えられません。
そもそも、IR整備法では、IRをつくることができる自治体は全国で3か所を超えないように指定されています。
またカジノ施設が占める面積の割合は、IR全体の3%までとされています。
カジノ法案は、その通称からもわかるように「カジノ」に強く注目されています。しかしこれまで見てきた通り、法案の目的はIR施設をつくることが中心であり、カジノ施設の数や運用方法には厳しいルールが課せられているのです。
もちろんこれまで日本ではカジノ解禁はされていなかったため、カジノ法案ができあがることで新しい問題が起こる可能性もあります。そこで、カジノ法案のメリットとデメリットを見ていきましょう。
カジノ法案の目的とメリット
IR推進法の第1条には、この法律の目的が記載されています。
第一条 この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
つまりIRを設立することで、ざっくりいうと次のようなメリットがあると考えられます。
カジノ法案の3つのメリット
- 光収入による経済効果
- 地域の雇用の促進
- 税収増による財政健全化が進む
どうしてIRによって、上のようなメリットが得られるのか見ていきましょう。
メリット1:観光収入による経済効果
日本には独特の文化、歴史のある建築物、四季折々で変わる街並みの風景、治安の良さなどさまざまな魅力があります。そういう意味では、日本は決して観光資源に乏しい国ではありません。
ただ、日本の伝統的な観光地には大きく2つの課題があります。
- 観光名所が散らばっており、アクセスが不便
- 観光地特有のナイトライフ(夜の観光)が少ない
「観光立国」「観光先進国」を目指す流れがあるなか、このような課題を解決するうえで注目されたのがIRです。IRではありとあらゆる施設が密集していますし、夜はバーやカジノ、劇場など自分が好きな時間を味わうことができます。IRはインバウンド市場を握るカギなのです。
実際、シンガポールでは2010年のIR設立によって外国人旅行者数、観光収入、ホテル稼働率ともに増加しています。IR設立前の2009年と2014年を比較すると、次のようになります。
2009年 | 2014年 | 2009年比の増加率 | |
---|---|---|---|
外国人旅行者数 | 968万人 | 1,510万人 | 156% |
外国人旅行消費額 | 1.00兆円 | 1.86兆円 | 186% |
国際会議開催件数 | 689件 | 850件 | 123% |
ホテル客室総数 | 1,134万室 | 1,470万室 | 130% |
ホテル稼働率 | 75.8% | 85.5% | 113% |
ホテル客室単価 | 14,950円 | 20,351円 | 136% |
データ参照:IR推進会議取りまとめ(概要)
シンガポールでは、IRが実現することで観光客を大きく呼び込めていることがわかりますね。
日本でIRが実現した場合、どれくらいの経済効果が見込めるのかはいくつか試算があります。どの試算においても、少なくとも数千億円以上のインパクトはあるといわれています。
メリット2:地域の雇用の促進
カジノ法案の2つめのメリットは、IR施設の開発、そして運営をしていくうえで、地域の雇用が促進されるということです。
IRの開発を進める際に多くの雇用が生まれるのは想像がつくかと思います。ただ、IRが運営に乗ってからでも継続的に多くの雇用が生まれることが想像できます。
- カジノのディーラー
- ホテル従業員
- 飲食店の店員
- エンターテインメント施設の管理人
このようにIRができることで、地域雇用が生まれます。それとともに経済が活性化することも期待できます。
メリット3:税収増による財政健全化が進む
上記メリットとも関連しますが、カジノ法案の3つめのメリットは地域の税収増に貢献するというものです。税収が増えることで、財政健全化が進むことが期待されます。
財政に苦しむ地域にとっては、IRは財政健全化の切り札です。多くの自治体がIR誘致に立候補している最大の理由は、新しい財源を獲得できるからです。
実際、海外の事例に目を向けると、シンガポールのギャンブル関係での税収は2000億円を超える規模です。
なお、日本でカジノが導入された場合、税納付金は売上の30%が予定されています。国と地方自治体で均等に割り振られるため、売上の15%が地方に入ることになります。
これを念頭においた試算では、日本でIRができることで数百億の税収増につながります。
ここまで、カジノ法案のメリットを確認してきました。ただカジノ法案への反対意見も根強くあります。そこで、カジノが解禁されることで生まれる問題点、デメリットを次に見ていきます。
カジノ法案で懸念される問題点とデメリット
カジノ法案に反対する人のほとんどは「ギャンブルが解禁される」ことに反対しています。ギャンブルが解禁されることのデメリットとして考えられるのは、次の3つです。
カジノ法案による懸念点とデメリット
- ギャンブル依存症の増加
- 治安の悪化、犯罪の増加
- 反社会勢力の癒着とマネーロンダリング
カジノ法案のデメリットについて深掘りしていきましょう。
デメリット1:ギャンブル依存症の増加
カジノが解禁されることで、最も懸念されるのはギャンブル依存症が増えることです。カジノができることで、日常的にギャンブルに触れる機会が増えることで、ギャンブルが習慣化してしまうのではないかという不安が指摘されています。
そのため、IR整備の前提として、ギャンブル依存症対策の推進計画を策定することが必要です。国も「ギャンブル等依存症対策基本法」を定め、カジノやパチンコ、公営競技への依存に対し、どのように対策をするのか方針を打ち出しています。
また、日本人客については次のような制限を設けることが決まっています。
- 週3回、月10回までの入場制限がある
- 入場料6000円
カジノができることで、ギャンブル依存症が増えると指摘されていますが、筆者の見解では、心配されているほど増加はしないと考えます。
というのも、パチンコ店が1万店舗以上あるのに対して、IRは全国で最大3か所にしかできません。カジノに触れる機会は限定的であるため、習慣になりにくいのです。
デメリット2:治安の悪化、犯罪の増加
次にデメリットとしてよく挙げられるのが、治安の悪化と犯罪の増加です。
外国人観光客を誘致することで、文化や慣習が異なる人々が集まります。また若者が夜中に集まるのではという声もあります。さらにカジノで大金を失うことで、窃盗や強盗が増えるのではないかともいわれています。
ただ、ラスベガス、マカオ、シンガポールといったカジノがある都市の治安は良いので、ギャンブルで治安が悪くなるとは一概にはいえません。2010年に2つの大規模IR施設を設置したシンガポールでは、IR設立前後を比較しても、犯罪認知数に変化はなく、殺人、強盗の件数にも変化はありません。
カジノがある都市は警備体制がしっかりしているため、実は安全なのです。
デメリット3:反社会的勢力の癒着とマネーロンダリング
反社会的勢力(いわゆる暴力団)がカジノ運営に入り込むのではないかという疑念もあります。可能性としてはゼロではありませんが、国が認めたカジノ管理委員会が、定期的にカジノ事業者の監督、そしてカジノ事業免許の審査を行うため、現実的にはないでしょう。
近年、国は反社会的勢力の排除には力を入れているので、反社会的勢力がカジノ運営に潜り込むのは簡単なことではありません。
ただ、反社会的勢力がカジノをマネーロンダリング(資金洗浄)に使う可能性はあります。犯罪などで得たお金をチップに換え、そのチップを再び現金に戻すことで、資金の出所を隠すことができるのです。こちらはカジノ運営とは異なり、単なるプレイヤーとして紛れ込むため、発見するのは難しくなります。
マネーロンダリング対策としては、以下のようなものが考えられます。
- 一定以上の現金の交換を禁止する
- 本人確認を行う
- 取引記録の作成と保存
どこまでマネーロンダリングを防止するための仕組みを整え、運用していくかがポイントとなるでしょう。
カジノ法案のメリットとデメリットについて理解できたかと思います。最後に今後、日本においてどのようにIRがつくられ、どのように運営されていくか動向を予想していきます。
これからの日本におけるカジノの動向
カジノ法案に対する強い反対意見があること、また政治的混乱から、カジノ法案が可決するまでには長い時間がかかりました。可決してからも、順調に進んだわけではありません。
もともと2020年のオリンピックにあわせて開業することを見込まれていましたが、いまとなっては現実的に不可能です。
では、これからどのような経緯を辿り、IRの実現に向かうのか動向を解説していきましょう。
日本でカジノができるのは2025年頃
日本でIRが開業するのは、ズバリ2025年と予想します。IR設立のための法律は完成しましたが、IR実現までには、以下のようなロードマップが必要となります。
- IRを設立する自治体の決定(2022年前半)
- IR事業者の選定(2022年後半)
- IRの開発(2025年後半)
IRを設立するのは全国で3か所までと決まっているため、それ以上の自治体が申請すればどこがIRをつくるのに相応しいのか国が選ぶ必要があります。
IR設立する自治体が決まった後には、具体的にどの民間事業者が開発に携わるのか、各自治体が決めることになります。
民間事業者が決まってから、いよいよ開発に着手することになります。規模にもよりますが、開発には3年間はかかると考えるのが妥当です。
以上のロードマップを考えると、スムーズに進んだ場合でも2025年が開業の目安といえます。
IR設立の有力候補となっている自治体
すでに触れたように、IRを設立する自治体は現段階では決まっていません。ただ、いまの段階で立候補を表明している自治体もあります。
- 東京(お台場)
- 千葉(幕張)
- 横浜
- 名古屋
- 常滑
- 大阪(夢洲)
- 和歌山(マリーナシティ)
- 長崎(ハウステンボス)
経済波及効果と集客力を考慮に入れると、有力な候補先として考えられるのは横浜と大阪です。特に大阪はIR候補地の大本命だといわれています。
まとめ
この記事では、誤解されがちなカジノ法案についてできるだけわかりやすく解説してきました。どのように日本がIRを推進していくのか、想像できるようになったのではないでしょうか。
重要なことを改めてまとめておきましょう。
- カジノ法案は観光客誘致を目的とした統合型リゾート施設建設を目的としてつくられた
- IR施設をつくることで観光収入を増やせた成功事例がある
- 日本にカジノができるのは順調にいけば2025年、候補地としては大阪が最有力
観光立国を謳う日本において、IRは大きなポテンシャルを秘めています。
カジノ法案を巡る状況は揺れ動いているので、今後も状況に応じて動向をアップデートしていきたいと思います。